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学校見学

筑波大学付属久里浜特別支援学校

2013年1月18日

今回の記事は初めての学校紹介。昨年12月にご紹介した毎日新聞社の野澤和弘氏の公開セミナー
主催であった筑波大学付属久里浜特別支援学校に伺いました。
学校のホームページには、学校理念・施設・学内組織・時間割・年間行事など詳しい情報が沢山公開されています。
学校から発行されている情報誌や研究レポートまでご覧になれますので、もっと知りたいと思われたら、
ぜひホームページhttp://www.kurihama.tsukuba.ac.jp/)を覗いてみてください。
ここでは、副校長の雷坂浩之先生に案内していただき、実際に見て、感じたままをご紹介いたします。

久里浜特別支援学校は神奈川県の三浦半島の先端、JRや京急の久里浜駅からバスに揺られて20分ほどの場所にあります。
学校の目の前はすぐ海。野比海岸という名の美しい砂浜が広がっています。
山と海と双方の自然に囲まれた広~い学校というのが第一印象。

児童数定員は幼稚部2クラス18名、小学部6クラス36名。各学年1クラス各6名。通常学級の平均人数40名に比較すると、
ぐっと少人数。しかも各クラスの教室は、着替え・集団活動・個別課題の3部屋に加え、シャワーも完備した4畳半ほどの
広いトイレや備品庫までが揃っています。 そこに3人の先生。なんと生徒二人に先生一人!と驚いてしまいますが、
特別支援学校としては定数法に定められた範囲内だとか。

校内の教室が広い訳は?
広くて恵まれた環境だと思ってしまいますが、決してそうではないということ。
それは、この広いバリアフリーの施設は、この学校がもともと重度・重複障害児童のために設置された学校であったためで、特別支援学校がこうした施設を揃えるのが望ましいということではないそうです。
実際、肢体不自由児も乗れるブランコや幅の広めな遊具を備えた屋外広場は、 
予算不足のため現状に見合った遊具にリフォームできず、
メンテナンス費用だけがかかっている状況にあるということです。

~学区は日本全国
また、当校の特徴として、学区が日本全国であるということ。
そのため、わざわざ転居して入学される家族もいれば、
校内に設置されている寄宿舎で生活する児童もいるそうです。
遠距離だけでなく家庭事情等による事由から、現在は幼稚部の小さなお子さんを含め5名の児童が校内にある寄宿舎生活しているそうです。
(写真は寄宿施設の居室)
寄宿舎定員は6名なのですが、緊急時の対応や次の進路の個別指導のために、1名の余裕を設けているとのこと。本当にきめ細やかに考慮されています。
夜間は5名の寄宿舎指導員の先生方と教員の先生方が交代で当直。
さらには、昔の養護学校の名残りで、ナースステーションもありました。
                       当時は8名の看護士がいらしたそうですが、現在は1名が常駐だとか。

~交流人事による教師研修
もうひとつの特徴として、教員の交流人事があります。学校のミッションの一つである先進的教育広めるという見地から、
全国の県教育委員会などから教員の先生方が3~5年の任期で派遣されて来るとのこと。
現在も30名の教諭のうち20名は交流人事による先生だとか。今年は特に任期終了の先生が重なり、10名の先生方が移動されるということで、1/3の先生が入れ換わるとは指導する先生方も大変そうです。
ここ久里浜支援学校での経験は、教師としての出世の登竜門になるという噂もあるとのこと。
研修や見学となると日本ばかりではなく、カンボジア・インドネシア・韓国・中国などのアジア諸国に加え、
ボリビア、ドイツなどから、行政機関や大学関係者、教員や学生がいらっしゃるということです。

~学内紹介
では、写真を見ながら、学校内の紹介をいたしましょう。

これは、送り迎えをするお母さん達が待っている間に見られる情報リスト。
保護者による病院・公共施設・公園・レジャー施設などのリアルな情報が
満載。

 

幼稚部プレイスペース。
大きなトランポリンの向こうは、寄宿舎のリビングルーム。
傍では先生が子どもとガッツリ遊んでおられました。
まるで休日のお父さんと息子のような感じ。

 

          きちんと脱いだ靴を揃えるように、
          視覚的工夫がされている。

 

 

陽当たりの良い寄宿舎居室。夜はここに布団を敷いて先生と眠る。
それぞれの箪笥がある。

 

 

幼稚部の教室に置かれた手作りの水筒置きや歯ブラシ立て。
様々な教材や生活道具がきちんとあるべきところに置かれるような工夫がされている。

 

 

陽当たりの良い教室では、家庭で写真を貼って作られたスケッチブックを見ながら、
家族とのできごとを話している様子。
奥に座っているA君は電車が大好きで、難しい言葉を使ってとても話上手だった。

 

        

 

        個別の課題学習は、各児童それぞれの能力に合わせて先生が用意し、
        移動式ロッカーの引出しにセットされている。
        児童はこのロッカーを机の傍まで持ってきて、先生と一緒に学習する。

写真は「大きい小さい」と「紐通し」。紐の先にはその子の好きなおもちゃが結びつけられている。

「大きい小さい」をやった後、粘土で形を作っていた。
何度も振り返って顔を見て笑ってくれた愛くるしいB君。

                

                      

                        
                       今日の予定が絵カードで視覚化されている。 

 

 

機関車トーマスが好きなC君のために、先生が作ったチャレンジブック。
トーマス シールがもらえるということで、一人でトイレがちゃんとできるようになってきたそうだ。線路をイメージするような貼り方も凝っている。
C君の頭の中は素敵な想像で一杯なんだろうな。

 

                     
                

              近隣の小学校との交流会の様子が廊下に掲示されていた。
              年に4回ほどお互いに訪問し合っているそうだ。

 

   廊下に張り出された「葉っぱのアート」。
   葉っぱの貼り方にも個性があって楽しい。

 

 

 

 

           
            
           

           写真部D君の作品。なかなか才能あるフレーミング。
           もっともっと沢山摂り続けて欲しい。

 

 

 

天井からぶる下がった蛇のアート。
一人で何枚も色画用紙を使ってローラーで蛇を描いたそうだ。
貼り方もダイナミックでセンスが伺える。

 

 

 

高学年の教室になると、視覚情報が少なくてスッキリしてくる。
どの教室も陽当たりが良くて明るい。
そう言えば学校にありがちな独特な匂いもせず、
どこもかしこも綺麗に片付いている。

 

        

 

 

観察室を下から見上げたところ。
教室の様子を児童に気付かれないように上部から観察できる。
現在ではVTRなどが多く使われるため、使用されることはないという。

 

 

 

小学部の個別の課題学習。縦一列が一人分。
能力と達成度に合わせた課題がそれぞれの児童のトレーに入っている。
先生が毎日毎日用意しているのだ。

 

 

               

 6年生の教室では、卒業証書授与の練習が行われていた。

 

個別の学習課題は、落ち着いて取り組めるように其々離れた場所で行うが、
中学に進学したら、環境も変わるということで、
一般的な教室を模した部屋を作り、環境に慣れるような指導をしている。

 

 

廊下にあった、docomo見学ツアーの掲示。
見学に行く前からバーチャル体験をして、公共でのマナーなどを学ぶ。
美術館見学の際には、受付を作り、壁に絵を飾り、その前部にポールを立てて美術館を模したセットが作られたという。
「いきいきタイム」と称して、公共施設や公共交通機関を利用する活動を通して
社会生活体験の拡大をはかっている。

 


校内に何箇所かある畑。
色々な野菜を皆で栽培している。

 

 

 

 

 

 海側の別棟にある生活・運動学習センターのプレイルームでは、体育の授業。 自立活動を指導する「のびのびタイム」は学年を越えた、能力別のグループで行われる。

海の見える広々したパティオ。
素敵な催しができそうな空間。

 

                   

             

              
             ランチルームでは 給食の準備が始まっていた。
             小学部では、児童が配膳を行う。

 

完食すると先生が楽しい札を掲げて褒めてくれる。
褒められることが嬉しくて 偏食しがちな児童も好き嫌いがなくなってくるという。
ちなみに集団食中毒などを考慮して、副校長先生は給食なしだそうです。
しっかりとリスクマネージメントされているようですが、周りにお店もない環境で
美味しそうで栄養管理された給食を召し上がれないのはお気の毒。
食中毒が発生して先生方全員アウトになったらお一人でてんてこ舞になってしまう?!

 

写真のデモホームは、実際の家庭を模した作りになっていて、リビング、和室、キッチン、浴室、トイレから構成されている。ここでは掃除や洗濯、調理の実習やが行われる。キッチンは児童の身長に合わせて高さが可動式という優れモノ。教育実習生や海外からの研修生が和室に宿泊することもあるそう。

こんな感じで、お忙しい副校長先生の午前中のお時間を目いっぱいいただき、学校を案内していただきました。
雷坂先生は見学の途中も、子ども達を抱っこしたり、声をかけていらっしゃいました。
教室に入る前も、張り出された児童の写真を見ながら、「この子はね、…」と其々の特徴を教えて下さる。
人数が少ないとはいえ、副校長先生が児童皆の名前とその素質をこんなにも把握されている学校って他にあるのでしょうか。
見ること聞くことに気を奪われていて、先生のお姿を写真に収めるのを忘れてしまいました。
雷坂先生どうもありがとうござました。

それぞれのクラスで説明をして下さった先生方も、生徒としっかり向き合っていらっしゃる。また、黙々ときめ細かな準備をされているなど、安心して子どもを預けられる支援学校という印象でした。
ただその反面、この豊かな環境から離れて別な学校へ行った時、子ども達はどう感じ、どう対応していくのか。
ここで過ごしたことをどう思い出し、どう折り合いをつけて対応していくのか。つい考えてしまいました。

自閉症児を対象としてから9年。ちょうど卒業した子どもが、ようやく高校生になるとのこと。
幼児期の初期教育が思春期の扱いにくさにどう影響するのかは、これからわかるということです。

最後は学校の前に広がる野比海岸の美しい海岸。バスの時間まで、キラキラ光る景色を満喫しておりました。
とは言っても311大震災の後は津波が気になりますよね。
そこはしっかりと毎月訓練が実施され、避難場所の裏山には様々な物資が保管されているそうです。

バスは時間帯によっては一時間に一本。タクシーも通らなければコンビニも見当たりません。
豊かな環境の中で可能性を伸び伸びと引き出してくれるこのような学校がもっともっとあったらいいなぁと思いながら、のんびりと家路に就きました。


【お知らせ】

来月に開催さる研究協議会と授業公開は、ただ今受付中です。
平成24年度自閉症教育実践研究協議会
<日時>
2月6日(水)授業公開@筑波大学付属久里浜特別支援学校
2月7日(木)研究協議会@ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
<研究テーマ>
知的障害を伴う自閉症幼児児童のための自立活動の指導 ~思い、考え、行動する子どもの育成を目指した授業づくり~
<詳細>
研究協議会について http://www.kurihama.tsukuba.ac.jp/kenkyu_kyougikai.htm
開催要項 http://www.kurihama.tsukuba.ac.jp/H24_zissenkenyoukou.pdf

【学校の歴史】
もともと重度・重複障害児童のための養護学校だったということですが、昔は見えない・聞こえない・肢体不自由・呼吸器を必要とする重度障害など複数の障害を持つ子どもは、就学を免除され学校に通うことはなかった(できなかった)そうです。
その後、法律が変わり文部省直轄の養護学校として昭和48年に設置されたのが国立久里浜養護学校でした。
平成16年には国立大学法人化に伴い筑波大学に委譲され、知的障害を伴う自閉症児を対象とした教育に特化した唯一の学校「筑波大学附属久里浜養護学校」と改編され、平成19年には法改正により現在の「筑波大学附属久里浜特別支援学校」となりました。

重度・重複障害から自閉症児に対象が移った経緯としては、特別支援教育法により、”すべての学校において、障害のある幼児児童生徒の支援” がされるようになり、重度・重複の児童への門戸が広がったこと、
発達障害が生徒の6.3~6.5%と増えてきて、社会的課題となってきたことなどがあるそうです。

  お願い)
ここに記した文章や写真の転記・転載等はプライバシー保護のため固くお断りいたします。

文・写真 高田敦子