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「自己肯定感を高めるそだち 〜 その先に見えるもの」安原 昭博先生 (イイトコサガシ)

2012年10月11日

10/11 発達障害の子供に対する「自己肯定感を高めるそだち」について勉強会があった。
講師は安原こどもクリニック院長の安原 昭博先生。

筆者と同じ双子座AB型という安原医師は今年還暦を迎え、
クマさんのような体形に優しそうな顔。
大阪にあるクリニック(安原こどもクリニック)の外来は超人気で8カ月待ちという。
発達障害専門医は全国で300人はいるはずだが、それだけ発達障害で悩んでいる人は多いのだろうとのこと。
1988年にできたADHDという概念を見て、自分はADHDだなぁと思われたそうだが、周囲の人はアスペルガーだと言うそうだ。
子供の頃は3歳まで喋らず、100年先までのカレンダーが言えるカレンダーボーイだったという。

汗をかきかき関西弁でエネルギッシュに語ってくれた先生のお話は、ADHDの特徴通り、話題が目まぐるしく変わる。
発達障害の主たるADHD、LD、自閉症スペクトラム障害(ASD)の特徴から、早期発見のための支援、薬物治療に至るまで、
クリニックやご自身の日常も交えながらテンコ盛り。

                                  

理事テーマである”その先に見えるもの”、すなわち発達障害治療のゴールは何か? 
それは大人になった時、子供にどうなって欲しいかを考えること。
幸せになって欲しいということだけを考えて子育てをすれば間違いはない。
と、はっきりと告げる安原医師。
そのためにはどうしたら良いかという話に真剣に聞き入る保護者や教育関係者で開場は満員であった。

 

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以下は筆者の備忘録です。セミナー内容をもっと知りたい方はどうぞ。

〜発達障害の障害とは”上手くできないこと”

発達障害(Developmental Disorder)”Disorder”というのはハンディキャップではなく、”上手くできないこと”。
日本語に上手く翻訳できなくて、”障害”という病名がついてしまったが、発達障害という場合の”障害”は”上手くできないこと”
なので、基本的には”個性や性格”として考えなくてはいけない。
とはいえ、生活の場面に合わないと学校で上手く適応できなかったり、家庭で叱られてばかりいて育つと
問題が深くなってしまう。という。

発達障害は病名に”障害”と付くため、親は受容するのに時間がかかるが、診断がつかないと次に進めない。
適切な時期に適切な支援が受けられるよう、早く診断することが大切だと説く。そうすれば、改善する道もあったり、
能力を発揮して専門分野に秀でることもある。
若くして才能を発揮して漫画家になった少年の話をチラリと紹介してくれたが、彼にとって学校は ”戦場” だったという。

〜個性を伸ばして褒めて育てる。そのためには早期診断が大切

アスペルガーの子供は専門分野に秀でる子供が沢山いる。
発達障害の子供の特徴は、若い時は何をやっても上手くいかないが、それは周りが既成概念で教えようとするためで、
それより “ずば抜けて凄い所” が隠されていて、それを見つけられたら、たぶん成功する。しかし、全ての子がそうではなく、
何をやってもダメな子供もいる。それでも現在をしっかり見て、学校へ行けなくてもしっかりご飯を食べて寝起きしていたら、
それで褒めることはできるし、部屋に閉じこもらずに外へ出るだけでも、それは褒めるべきで、褒めることは一杯ある。
適切な時期に援助をできたら不適応な行動は減り、絶対になくなっていく。

適切な対応をするためには様子見をしていて手遅れにならないよう、早期診断が大切だと説く。
「問題行動は躾けのせいでなく病気のせいである」と言えるのは初期に言えること。(二次障害については後述)
特に軽度知的障害は、就学してから1,2年は良くても、ある時、急についていけなくなることがあるため、
診断が遅れてはならないという。早くから支援学級に入った方が、中学卒業の時点では圧倒的に社会適応力が上になる。
統計上では、ASDが1%、ADHD5%、LD10%なので、ほぼ40人クラスに、4〜5人の発達障害の子がいるため、
先生一人ではとうてい対応できないのだ。

〜ADHDは世界を変える優れた人

ADHDの診断は行動観察で行うが、判断する人の能力や状況によって異なることがあるので、モグラーズや脳波、
発達テストなどの検査で補っている。
たとえば、診察に来た子供で回転椅子で一番クルクル回るのは、アスペルガー+ADHDの子供。それは不安が強いから。
ADHDは言えば回転を止める。自閉症の子は診察室に入ったとたん、椅子は無視してベッドに上がって横になってしまうそうだ。
また、ADHDは、成人時には差はないが、子供の頃は比較的心身の発達が遅く小柄で奥手が多いという特徴もあるという。

安原医師によれば、ADHD=優れた人
世界を変えた人はADHDしかいない。まぁ自閉症の人もいるが、普通の人では世界は変えられない。それは普通がいいから。
ADHDは自分たちの世界がいいので、そこへ変えようと努力する。今ないものは作りたいと思うの。
学会などで活躍している人はADHDが多いそうだ。

〜影響が大きい母親の喫煙

発達障害の原因については、脳の機能障害、ドーパミン受容体・ドーパミントランスポーター遺伝子の変異、脳波異常、
神経損傷が言われていて、特に母親の喫煙は影響が大きいという。(一般の母の喫煙率 17.4% 、ADHDの母の喫煙率46.2%)

〜二次障害に至らないために注意すること

ADHDに対する適切な支援がなく、親の愛情障害や暴力などの育て方の間違いにより、二次障害として
ADHDが反抗挑戦性障害(ODD)から行為障害(CD)に至ってしまうことがある。これはDBDマーチと呼ばれ、
薬物依存、スピード違反、レイプ、性感染症、AIDSが多いなどトラブルを起こす深刻な問題である。

ADHDは本来の良い面、閃きと創造性に溢れ、エネルギッシュで有言で、実行力と行動性に溢れるという特性を
伸ばしてあげるような支援が大事。3人に1人は成功する人がいるのだから。
叩いて育てると反抗的になるだけなので、褒めて育てる大切さを強調された。

 

〜勉強ができない原因は何なのか、見つけてあげることが大事

LDについては、脳の機能障害多くは脳波の異常、遺伝要因もあるという。クリニックではLDの診断を親に説明しても、
親もLDな事が多いため説明するのが大変なことがよくあって大変だという。
子供が宿題をしないのは字が読めないからか?算数ができないからか?書くことができないからなのか?
LDは早く見つけてあげないといけない。

 

〜有名人に多い自閉症スペクトラム障害(ASD)

ADHD、LDとはだいぶ違う。症状の中核は、Mind Blindnessで相手の表情が読めないことである。
模倣ができない。目を合わすことができない。喋れない。限定された行動パターンが見られるなどこだわりが強い。
最近は100人に一人から50人に一人くらいに増えている。脳の器質性障害、遺伝的要因・環境要因がある。
母親の感染症・妊婦の喫煙・水銀・脳波異常・ミラーニューロンの異常などが原因として言われている。
原因遺伝子については100以上あり、どれが本当なのか分からないという。

有名な人は、ニコラ・テスラ、アイザック・ニュートン、ハインリヒ・ヘルツ、アインシュタイン、
ルイス・キャロル、ビル・ゲイツなど。他にも沢山いる。コツコツやって名を残している人が多い。

〜自尊心を伸ばす育て方。できることを繰返して褒める。

コツは命令しないこと。
治療のゴールとは何か?
小児科医師小児神経科医としては、大人になった時に幸せになって欲しい。
それは親と共通の概念。
ではどうしたら良いか? 
自分の良い所を伸ばして、良好な社会生活ができるようにすること。
そのためには自尊心を上げなくてはいけない。
技能を上げることも必要。しかしできなくても良いということも教えなくてはならない。

コツは命令しないこと。命令すると絶対にしなくてはいけなくなる。
できない時はどうするか。できないことはしないので、できることを繰り返しやって、新しいことを10%くらいやる。
「〇〇しなさい」ではなく、「〇〇します」。
否定もいけない。「ダメ!」ではなく、「〇〇すると良いんじゃない?」と言って、できたら褒める。
「立ってはダメ!」ではなく「座ろうね」。
そして、自尊心を高めるためにできたことを評価して褒めて育てる。

〜薬物療法は子供を扱いやすくするために使用するものではない

治療としては、行動療法と薬物療法がある。

行動療法
  応用行動分析(ABA)、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)、ペアレント・トレーニング(いいとこさがし)
薬物療法
  大人が子供を扱い易くするために使用するのものではない。
  子供が学習障害や集団で問題を起こして不利益を被ってしまうことを防ぐために使用する。

早期集中行動介入
  UCLAのローバース教授のABAを模して、家庭において一週間に14〜21h(2h/日)の治療を一年半行った。
  療育園の指導のみのグループと、家庭での行動療法も加えて行ったグループにおいて、認知・適応DQ、
  言語・社会DQ、トータルIQいずれも良い結果であったという。

〜療育の現場から

跳び箱 跳び箱の真ん中に座って降りる練習をしてから、跳び箱を飛ぶときにお尻を押し出してあげる。
縄跳び 「スーパーとびなわ21cmグリップ」(TOSS)
逆上がり 「鉄棒くるりんベルト」(TOSS)
感覚過敏 耳栓、イヤーマフ、フード、サングラス
集中力 勉強机はコーナーに。パソコンは置かない
パニック 静かになるまで待つ。小さな子なら抱いて静かな所に移る。声掛けはせず、視線も合わせない。
      そうするとシメシメと思ってまたやる。おさまったら褒めてあげる。
TV 2、3歳までは見せないのが望ましい。
ゲーム ゲームは友達づくりとは関係ない暇つぶしアイテム。
     拘りを利用して、時間をきっちり決めてやる。盗みなど犯罪に繋がるので止めた方が良い。

 

<関連リンク>
■安原こどもクリニック
http://www.y-c-c.jp/aisatu.html
■YCCこども教育研究所
http://www.y-c-c.jp/ed/index.html
■「ADHD・LD・アスペルガー症候群かな?と思ったら」安原 昭博 明石書店
  http://www.amazon.co.jp/gp/product/4750325562/ref=oh_details_o03_s00_i00
■TOSS
https://www.tiotoss.jp/products/list.php?category_id=23&PHPSESSID=l69stc3i2vss8c409n0958id85

文・写真 高田敦子