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「発達障害の人の可能性をみつけよう!」冠地 情氏(三鷹市精神障がい者地域自立支援事業)

2013年3月5日

「発達障害の人の可能性をみつけよう!」イイトコサガシ ワークショップ 冠地情 氏
(主催:三鷹市精神障がい者地域自立支援事業 社会福祉法人巣立ち会)

 今回は、イイトコサガシでお馴染みの冠地情さんの講演に伺った。
主催は冠地さんも中学・高校時代を過ごしたという三鷹市で、三鷹市精神障がい者地域自立支援事業として開催された。

巣立ち会 小林さん

               
企画・運営は巣立ち会
巣立ち会は、精神科病院の社会的入院の解消を主な目的として、
就労支援や自立訓練、共同生活援助事業(グループホーム)などを展開している。
今回は、三鷹市からの受託事業(三鷹市精神障がい者地域自立支援事業)の
一環としての講演会であった。

 

 

運営会社の諸事情により今回が私の最後の記事となるのであるが、
冠地さんには初取材のソルトさんに始まり、安原こどもクリニック安原先生富山の木立さん、末村さんの講演
何度かお世話になってきた。
いつも、「イイトコサガシは講演ではなく、ワークショップがメインなんです。」と言ってらした冠地さんのお話を
こうして最後にご紹介できるのは嬉しい限りである。

冠地さんは、最近ではNHKハートネットTVにも出演されたり、この日も慌ただしく次の会場へ移動されるなどご活躍で
イイトコサガシのワークショップの開催も300回を超え、全国32都道府県 都内43区市を制覇、
参加人数も3000人以上に上るという。 

ワークショップの進行をする冠地さん

共感されることがあまりないまま育ち、自分の考えを否定され、修正されることで発達する機会を喪失してきた人は、人との交流は不安であり、一人で過ごすことを選びがちであるという。
自分はどうやってそれを克服してきたか。色々な人とのコミュニケーションを楽しむにはどうしたらよいのか。

イイトコサガシのワークショップは、楽しいコミュニケーションを気楽に試すことのできる交流の場。
そこで自分の気付きが得られたら、試行錯誤を繰り返し成長ができる。
イイトコサガシは発達障害当事者だけでなく、支援者も鬱の人も高齢者も誰もが対等に参加できる
社会のインフラであると、力強く語ってくれた。

笑い声の絶えなかったワークショップでは、参加者も見守る人達も、皆が冠地さんの講演内容を実感できたのではないだろうか。自分は問題を抱えてはいないと思っている人達も、自分ばかりが主張せずに、相手を理解し、
その考えを受入れ、互いにコミュニケーションを作り上げていくように意識的に努めてみたら、
人間関係はもっと上手くいくのではないだろうか。

 

 
大前提としてアピールしたいこと

 ダメ、できない、苦手ではなくて、可能性や魅力、明るい未来から語って欲しい。
発達障害はもともとの脳の特性的なことで、できること・できないことのバランスが悪い。
環境によって魅力になる場合もあれば、心の傷になってしまって
弊害になるなど環境によって大きく分かれてしまう側面がある。


共感とは?

共感とは生育過程で重要な要素。自分も共感されることが、なかなかないまま育った。
発達障害は、行動や考え方を受入れてもらうよりも、
違和感を指摘されたり・否定されることが多い。
感性・発想・想像力を受入れてもらえないことからスタートする。
さらには、多数派の論理から、それを修正されてしまうことがある。
共感してもらった経験がないので、相手に共感できることを探せない。
共感するのではなく、”違うこと探し”、”受け入れられないところ探し” から
人間関係が始まってしまう。
アイデンティティを見つける前に、社会とか多数派など、自分とは違う、
訳のわからないものが自分の中心に入り込んでしまう。

自分は、勉強も、時間管理も、整理整頓も、時間割を揃えて明日の準備もできず
いつも叱られていた。
自分の思いや考えを、学校の先生にも友達にも、家族にも受け入れてもらえなかった。
今ではこうして語ることができるが、当時は共感してもらえなかったことを言葉にできず、                 感情が先に出て争いになり易く、その原因自体もわからないままであった。

相談って難しい

セミナーや講演会では、 最後に「いつでも相談に来て下さいね」と終わることが多いが、
相談は意外と難しい。
発達障害は、自分の中での違和感や自分の考えを言おうとすると、
それまでの経験からストップがかかってしまい、自分の想いが言葉にできず、感情や行動として出てしまう。

相談というのは、

  ・ 相手に伝わり易い言葉、相手に合わせた比喩を意識的に使わなくてはいけない
  ・ 自分を客観視して言語化し説明する
  ・ 相談された経験が必要
  ・ 相手が自分と違う意見や答を言っても、それを受入れる必要がある
  ・ 相談してよかったという成功体験が必要

しかし、発達障害は共感してもらった経験が少ないため、他人を通して自分がどう見えるかを考えたり、
言語化する機会に恵まれていない。
色々な人と話をすることで、相手に合わせた比喩・言葉を使うことができるのに、その経験も少ない。
相手を受入れる機会も少ないので、他人の価値観・ルールを習得することもない。
さらには相談される機会も少ないので、どう相談するかも解らない。
相談というのは高度なコミュニケーションを要するため、相談する前提条件が整っていないのである。

発達凸凹は思考停止が原因?

発達障害は、人と接して上手くいった経験よりも失敗体験の方が多いため、
人と接してチャンネルを増やすことができず、楽なので一人で過ごしがちになる。
人と上手くできないことを相談もできず、何が上手くいかないのか、何がストレスなのかがわからなくてイライラするばかり。 そして、最初は意識的に、「もう考えるのはよそう。」と考えるのを止め、
だんだんそれが習慣化して、思考停止となってしまう。
その反面、好きなことや趣味では、思考停止しないので、その差が顕著になり凸凹が明確化する。

発達機会喪失障害

発達障害を脳の特性だけで考えると解りにくいが、発達機会喪失障害と捉えてはどうだろうか。
発達障害の人は、成長する機会・コミュニケーションする機会・色々な人と交流する機会を
喪失したまま大人になってしまったと言える。

自分はいじめられてばかりいたので、クラス替えがあってもウキウキするどころか、今度は誰にいじめられるのかと思っていた。新しい人間関係は、希望ではなく、新たな不安だった。
自分をどう表現したら良いか、どう言語化するか解らなかったので、
自分を守ることだけに集中せざるを得なかった、

人間は他人との交流、相手からのリアクションを通して、成長するものだと思う。 
それなのに、一人でいることを好んでいると、自分を試行錯誤する機会が失われたまま育ち、
環境として成長できなくなってしまうことがある。

そして、二次障害としてさらに深刻化してしまう。
居心地の良い世界にいなければ、死んでしまう。社会が受け入れてくれないのは、社会に問題がある。と
いうふうに考えがちになり、ますます、社会との接点が見つかりにくくなり、
歩み寄ろうにもできなくなってしまう。

どうやって社会と折り合いをつけていくか

周りの人は、「早く就労したら。早く引きこもりをやめたら。」というけれど、
心の傷があるので、ただ背中を押されて働けと言われても難しい。

自分が必要とされている、認めてもらえるということ、
頑張れば社会が受け入れてくれるという希望がなければ動けない。

大切なのは気付き

一番大切なのは、自分なりの気付き。人の答は自分の答にならない。
気付きと試行錯誤はセット。気付きをもとに試行錯誤して、また気付く。
これこそが人を成長させる鍵である。

イイトコサガシ

イイトコサガシのルール

どうしたらこの気付きと試行錯誤を楽しくできるか。それは、人と人の交流。
講演会を聞いたり、本を読むよりも、色々な人と交流するが一番である。

これを具現化したのがイイトコサガシのワークショップ。

  ・“ダメ・苦手・できない”から始まるのではなく、“イイトコサガシ”から始まる
  ・当事者も、支援者も、うつ病の人も統合失調症の人も、高齢者も若者も、対等に
  ・トレーニングでも訓練でもなく、気軽に交流できる
  ・双方向のコミュニケーションを、相手と自分で楽しく作りあげるワークショップ
  ・そして、批判・助言はなしで、良かったことを褒める

イイトコサガシを通して、今までは煩わしい、面倒だと思っていた
コミュニケーションの楽しさを知り、それを実感してもらいたい。

実際、“相手の良いところを探そう”とは良く言われるが、現実にはあまり実施されていることはない。
また、発達障害の人の気付きのスイッチはちょっと違うので、
色々な話題、バラエティに富んだ交流を気軽に試せる環境が必要。

共生・共存からハイブリッドへ

発達障害が特別な存在で、社会で一緒に共生・共存するというよりも、ハイブリッドなより良い社会を作りたい。

発達障害だけで考えるのではなく、様々な立場の人達が対等な形で、
楽しいコミュニケーションを作り上げていくモデルが必要。
そうしたコミュニケーションを軸として社会が変わらなければいけない。
そのインフラは提供し、こちらから出向いて行きますので一緒に交流しましょう、ということで
イイトコサガシの試行錯誤を繰り返してきた。
すでに300回以上開催。開催地域は32都道府県。延べ3000人が参加してくれた。

   「イイトコサガシをすると、イイトコサガシが返ってくる。
    すぐには返って来ないが 忘れた頃に必ず返ってきます。」

 という最後の言葉が大変印象的な、パワフルな講演であった。

 会場からの、 「生き辛かった自分の人生の中での工夫は?」という質問に、
   「やれるだけのことはやろうということで完全燃焼を目指した。
     それがイイトコサガシの活動で花開いた。
       自分の物差しで考えた宝物だと言えること。それを沢山作ることが大切だと思う」
というアドバイスもあった。
また、社会人になってからは、人との会話を録音させてもらって通勤時に聞くことにより、
自分の会話を客観的に振り返ることもされてきたそうである。

 

イイトコサガシ ワークショップ

左から、マコさん、みゆさん、ダイさん、トシオさん、イヴさん、マイさん


 1)自己体験紹介

まず、言われて嬉しい言葉を挙げ、その言葉の中から1つを使って、短く簡潔に一旦結論付ける。
その結論に最大二つの理由を加えて自己体験を紹介するというもの。  
日本語は結論が最後に来るため、結論が解り難いというが、短く一つの結論付けはできるということを学ぶ。 
短く結論付けて、次に進むことで会話がスムーズに進み易い。

    例 「私は自分の職場が“大好き”です。なぜなら、働いているスタッフが“優しい”からです」

2)アイスブレイク

 緊張を解きほぐす簡単なゲーム。 
“Majorityを探せ!“ これは、与えられたテーマについて、自分の考えではなく、皆が答えそうな答を考えて言うゲーム。 
発達障害の人は、自分の好きな話を一方的にしがちであるが、
この場で、この人に、話して良いことなのか、楽しい会話になるのか、
一旦考えてみる工夫を、majorityを考えることで学ぶ。

    例 「お肉を使った料理と言えば?」 

    例 「赤い色のモノといえば?」
 

3)イイトコサガシ 本番

会話を交わすイヴさんと冠地さん

2人が与えられたテーマについて5分間、ルールに沿って会話をする。
残りの人は見学し会話の後で、批判や否定はなしで、会話の良かったところ、
面白かったところ、参考になったところを褒める。 
普段は何気なくしている会話であるが、
  ・片方ばかりが喋らない
  ・半分は相手が主役になるような質問をして話を促す
  ・テーマから逸れたらもとに戻す
  ・「知らない」「興味がない」など会話が終わってしまうような言葉は使わない。
などコミュニケーションのルールを意識して話すことを学ぶ。
また、楽しい会話を心がけることにより、コミュニケーションの経験を積み、
イイトコサガシで褒めてもらうことで、成功体験を積むというもの。

この日は、冠地さんとイヴさんが 「好き」をテーマに会話を楽しみ、
会場から笑いが絶えなかった。

 

 写真・文 高田 敦子