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「障害者就労支援センター すきっぷの就労支援」上滝 彦三郎氏 (武蔵野東教育センター)

2013年2月6日

今年2回目の取材は、以前にも取材させていただいた武蔵野東教育センターが主催する支援者のためのセミナー。
今回は、世田谷区立障害者就労支援センターすきっぷ(以下、すきっぷ)
施設長の上滝彦三郎氏による就労支援について。
会場を埋める参加者はご夫婦で出席している方も多く、
熱心にメモを取るお母様方の姿が多く見られた。

 

 

 

すきっぷでの相談のきっかけは家族の意向によることが多いそうだ。
しかし、支援の過程において本人の働く意欲が刺激され、1998年の開所以来、全体(通所・相談室合わせて)で毎年約30人、
延べにして367人が職に就き、就職率90%というすきっぷの就職支援とはどのようなものか。
そのプログラムと特徴を知れば、学校卒業後に社会に出て働いていくためには何が必要なのかが解るのではないだろうか。

講演では、すきっぷ施設・すきっぷにおけるプログラム内容とその特徴について、具体例を交えながら紹介。
「就職のための鍵」として、企業が重視するのは “作業能力よりも作業態度”であると強調し、
挨拶・報告・連絡・相談の大切さを説いた。
特に、「毎日通う」・「挨拶する」・「報告する」ということは、学齢期から取り組むべきで
家庭での手伝いなど日常的な場面が一番効果的だという。

また、親の思い込みにより子どもの可能性を狭めないように、子どもを信じて成功体験を積ませ、
褒めて育てることが大切だと語った。

さらに、就職支援では、職を見つけて送り出すことに加えて、送り出した後に長期就労に結びつくための定着支援が
より重要であり、すきっぷでも力を入れているということであった。

では、講演の詳細内容をご紹介しましょう。


〜すきっぷとは

すきっぷ は、区から委託を受けて社会福祉法人 東京都知的障害者育成会が運営している。
利用方法には、通所利用と就労相談室利用の2種類がある。
通所部門では、自閉症および自閉傾向にある利用者は3割弱。2006年の障害者支援法を受けて新体系となった。
就労相談室は、知的障害に加えて、発達障害や高次脳機能障害も支援対象となった。最近では相談者の2割は
発達障害であるという。

通所と就労相談室の主なサービスは次のような内容となっている。

通所は、2年間を目途に毎日通い、学習・作業・体験実習など就労準備訓練をしながら就職を目指すというもの。
名刺や封筒などを提供する印刷班と区内老人ホームへのリネンサプライを行うクリーニング班があり、
工賃も支給される。早い人で1年半、学校新卒は2年で就職をしている。
(*利用料金はかかるが、多くの場合減免があるため実質0円)

就労相談は、知的障害・発達障害・高次脳機能障害のある方に対して、主に求職相談・支援と定着支援を行う。
(*利用料金はかからない) 
 また、企業に対する障害者雇用支援も行っている。

いずれの場合も、就職後の定着支援を重視して行っているという。

〜これまでの実績

1998年の開所以来、センター全体(通所・相談室合わせて)で毎年約30人、延べ367人が就職している(23年度末)。
その業種は、事務系(30%)、清掃(25%)、
店舗バックヤード(16%)、調理・食品系(11%)、
倉庫・流通(3%)。
*カッコ内の数字は全就職者に対する割合

 

事務系が多いのは、東京に本社機能を持つ会社が多いためで、東京の特徴と言える。内容はデータ入力、シュレッダー作業、コピー用紙補給、DM封入など。

清掃は求人が多い。店舗バックヤードについては、服をたたむ、ハンガーにかけるなど。
ユニクロ・ABCマート・ZARA・H&Mなど若者に人気の大手店舗の名が挙がっていた。
飲食系では、スターバックス・マクドナルドなど、これもまた馴染みの飲食店。

採用形態は殆どが非正規社員であるが、半年または1年ごとの契約更新の際に家族や支援員が同席できるため、
本人の就業状態や雇用条件について話し合えるというメリットがあるという。

また、就職した後で、前向きな転職・就業状況不良のために離職する人も1/3ほどいるが、
すきっぷでは再就職も積極的に支援しているそうだ。
上述のデータには、そうした再利用による再就職も80例ほど含まれている。

 

〜就労を意識した作業訓練

・就労準備訓練
週に4日間は、クリーニング班や印刷班に分かれて作業訓練を行う。
納品時には支援員も同行するが、なるべく自分達でできるよう指導している。
また、体験実習や雇用前提実習として、官庁や民間企業など実際の職場での実習も行われている。
こうした訓練や実習により、本人の能力を知ることができると共に、成功体験による自信も得られる。
自閉症の方にとっては苦手な環境変化についても、こうした体験を重ねることで耐性がつき、
不安感が解消される場合も多いという。

・基本的労働習慣の習得
作業態度・作業能力・マナーなどを習得するための指導を行っているが、
企業が重視するのは “作業能力よりも作業態度”、ということで、”スキル習得よりもマナー習得“に重点を置き、
挨拶・報告・質問がきちんとできるように指導している。
自閉症の方はもともと高い作業能力はあるので、作業態度や社会性については繰返し取り組むことで身につけるようにしている。

・就労意欲の向上~
利用者のモチベーションを高めるために、週1回の利用者ミーティングでは就職報告を行っている。
仲間の就職が決まったことが励みになり、「いつか自分もこのように報告したい」と羨望するそうだ。
また、先輩が働いている姿を見学することで、憧れを抱き感化されることも多々あるという。
毎年OBや利用者が400人近くも集まる大規模な新年会では、1年・3年・5年・10年時別永年勤続表彰も行われ、
他にも秋祭りや1泊の宿泊訓練などの行事が開催されている。
こうした利用者同士・OBを含めた交流は、励ましとなり、よい意味でプライドを刺激し、
働く意欲とモチベーションを向上させている。

 

〜就労を意識した社会生活プログラム

毎週水曜日の社会生活訓練は、社会生活力を高めるためにMax8人までの少人数で
下記のようなプログラムについて学習する。

  ・通勤時に電車が遅れた時の、会社への連絡方法
  ・通勤途中での勧誘・アンケートへの対応方法、ひっかかった時の相談先
  ・面接時の服装・言葉遣い
  ・給料の使い方
  ・一人暮らしに必要なこと(掃除、洗濯、食事の作り方、ハンガーの掛け方など)
  ・先輩の職場見学
  ・周囲とのコミュニケーション

たとえば、実際に通勤時を想定して外の公衆電話から連絡する、模擬面接を行う。
また、キャッチセールスについてはロールプレイを演じるなど、
プログラムでは机上の学習よりも見学・実体験を重視して伝え方の工夫をしているそうだ。

 

〜定期的評価と個別支援計画

こうした就労支援は、まず客観的な評価をするため、日常生活・社会技能・社会生活の3領域についての
評価(アセスメント)をする。この評価を参考に、本人・家族・福祉事務所・すきっぷ のメンバーで
定期的に個別支援計画が立てられ実行される。
関係者全員で支援計画を作成することで、認識の共通化と役割分担を実現している。

 

〜就業支援事例

好事例1)
23歳。特別支援学校卒業。愛の手帳(療育手帳東京版)2度(重度)。
区内作業所に通っていたが、作業が簡易で本人にとってはつまらないということで家族が就労チャレンジを相談し通所。
言語によるコミュニケーションはオウム返しが多く、言葉での理解は一部できるが本人の考えていることは伝わりにくい。
作業の好き嫌い、気分の浮き沈みが激しい。
クリーニング作業において、作業の達成を目に見えるよう好きなシールを使った。
就職では、マッチングが上手くいき、老人病院でのオムツたたみを体験。
作業手順に写真カードを利用して気分良く作業ができるように工夫し、無事採用となった。

 好事例2)
夜間定時制高校卒業後、家族より相談。愛の手帳3度(中度)。
読み書き、PC能力は高い。好き嫌いが激しく、気に入らないと自傷行為があった。
作業手順は自分の手順でやらないと気が済まない。
家族の意向により多くの体験実習を経験した後、ユニクロに採用された。
“袋剥き“作業、ハンガー掛けに従事。掃除は苦手、作業見通しが苦手などあったが、
手順のカード化・指示の見える化などを支援した。 
現在では“袋剥き“作業については、通常の人の1.5倍の出来高が出せるため、繁忙期には応援依頼されるほどの戦力となっている。すでに勤続10年。

 困難事例)
フリースクール卒業。愛の手帳4度(軽度)。
言語理解力は高いがそれに比較して、作業態度や手先能力は劣る。
シュレッダー作業員としてある企業に就職するが、就職後も支援継続中。
理解力や作業遂行力は高いが、人の好き嫌いが激しく、企業内の指導者を嫌ってしまい指示が通らない、
勤務状況にムラがある、通勤しても社内に入らないなどの問題あり。定着支援を手厚くしているケース。

 

〜就職のための鍵

「企業が重視するのは、作業能力よりも作業態度」、である。
そのためには、学齢期から「毎日通う」・「挨拶する」・「報告する」ことを身につけること。
家庭での手伝いなど日常的なことは一番訓練効果があるため、「褒めて成功体験を積み重ねる」ことが
遠回りなようで一番効果的。
また、自閉症の方はなんでもYES。できなくてもYES。という「YESマン」になりがちであるが、
NOと言えるようになること。周りの導きが必要だ。

 

〜定着支援の大切さ

就労支援は「送り出すよりも、送り出した後が重要かつ大変」ということで、安定した職業生活を続けるため、
定着支援の重要性を強調。
都内各地域、区市町村の障害者就労支援センター等を活用して欲しいとのこと。

 

〜まとめ

①体験経験の場の提供と保障が本人の力を伸ばす。
②就職に関しては、「訓練効果」と同等に 「マッチング」である。
 本人を変える・変わるより情報収集によりマッチングをするという視点が大事。
③自閉症の親御さんは、「うちの子は〇〇ができない」という思い込みを抱きやすいので、
 子どもの可能性を狭めないように、子どもの成長力を信じること。

 
〜おわりに

家族にとっては、学校を卒業してから社会人としてどのような進路に向かうのか、
親がいなくなったらどうなるのか。子どものことはいつまでも心配の種である。
そのためには、財産を残したり、親の元にいつまでも囲っておくよりも
子どもが社会の中で自立してやっていける力と知恵を身につけてあげることが一番。
子どもを信じて、家庭での日常の積み重ねや、生活の中での成功体験を共に喜ぶことが
何よりも大切なこと、そして社会がそれぞれの個性を活かせる場を提供していくことが
必要だと強く感じさせられた。

 

関連リンク
・世田谷区立障害者就労支援センターすきっぷ
http://www.ikuseikai-tky.or.jp/~iku-skip/how_to_use.html
・学校法人武蔵野東学園 武蔵野東教育センター
http://www.musashino-higashi.org/education-center.htm

文・写真 高田敦子