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「大学時代に受けてきた支援を通じて」ソルト氏 (イイトコサガシ)

2012年9月21日

初取材は、富山県発達障害ピアサポートの会のソルトさんによる
「大学時代に受けてきた支援を通じて 〜ソルトの場合〜」の講演レポート。
実際に発達障害当事者の方々とお会いするのはこれが初めてなのでドキドキ。

ソルトさん

ソルトさんは、アスペルガー症候群の当事者であり、現在は富山大学の博士課程で、
発達障害がある人の脳画像解析の研究をされている。
講演ではご自身の子供時代の体験や大学学部時代に受けた支援について具体例を交え
率直な気持ちを話してくれた。

 

〜子供の頃のこと〜
小学校3年生くらいから周りと少し違うなと感じがあった。
自分自身、悪気なくやったことがいじめに遭ったり反感をかったりしていた。
たとえば100点を取って、他の人が80点だと、「なんでそんなことがわからないの?」と悪気もなく言っていたが、
当時はそれが人に不快感を与えるとは気付くこともなかったし、だれも指摘してくれることはなかった。
結果、発達障害を含めて自分の何がいけないのか自覚がないまま、いじめを受け続けていた。

学習面では、作者の考えなど相手の立場に立って考えるようなことが苦手だったため
文章題や読書感想文は嫌いで、国語のテストでは漢字で点を稼いでいた。逆に論理的な数学などは解り易かった。
また、フリーテーマで好きな絵を描くというのは苦手であるが、お手本がある書道はやり易かった。
「ドラマや映画、小説の類は観ても読んでもその情景を描くことが苦手で、
小説などは文章だけなので場面場面がイメージしにくい。主人公の気持ちになってというのは今でも苦手。」
対人関係のコミュニケ—ション障害はこの後も続くと思う。

〜大学での支援〜
大学に入り、普通の人になりたい。人間関係を変えたい。自分をなんとかしたい。という想いを抱え、
出会ったのが、保健管理室のカウンセラーの先生。
これまでのことや身の回りで起こったできごとを打ち明けて、定期的に面談をしてあらゆることを相談しアドバイスをもらった。

たとえば、山登りに行って友人から「この崖から落ちていいよ」と言われて、本当に崖から落ちたいくらいにショックだった話。
普通の人ならば、”冗談に決っている”と解ることが、全て字義通りに受取ってしまうので、
「何が冗談で、何が本気か全く判断できない。」
また試験前のノートの貸し借りについて、サボった人には貸したくないという気持ちと、
友達になりたいので貸してあげたいという葛藤に悩んだ。
自分は利用されているだけなのではという想いなど、一つ一つの具体的なできごとに対して
先生に客観的に解説をしてもらい、気付きを与えられることで自分の考え方や言動を修正するという実践を繰り返した。
「コミュニケーションや社会性が、自然に身についたのが普通の人。
 自分は中学生から習い始める英語のようにそれを意識的に学んできた。」

 

こうした積み重ねは、ソルト氏が当初から心がけてきた
「過去と他人は変わらない変われるのは未来と自分だけ」
という強い信念の成果である。
保健管理室での実践サポートは大学一年から大学院卒業まで続き、その内容を記したノートは重みのある成長記録であり
人間関係の教科書となった。驚くべきことに、これは発達障害の支援ということで行われたものではない。

〜アスペルガー症候群の診断〜
ソルト氏が、自分は発達障害ではないかと思い、診断を受けたのは、大学院を卒業し
会社に一般就労として勤めていた27歳の時。
大学時代の保健管理室のカウンセラーの先生からいただいた「地球生まれの異星人」(泉流星 著)に共鳴したのが
きっかけだった。

アスペルガー症候群の診断を受けた当初は、これからどうしたら良いかと将来が不安であったが、
専門書を読むことにより自分自身を理解するスピードが増した。

〜ソルトのこと〜
講演の最後に、ソルト氏は自分の特異で得意な能力について紹介してくれた。
絶対音感や数字の暗記などのアスペルガー症候群特有の才能から、料理やグルメ、変わったところでは
ちょっと普通の人にはできない指芸と顔芸。真面目な顔で鼻の下を思い切りMAXに伸ばして笑わせてくれた。
音楽や指芸・顔芸は、大好きな海外旅行でも言葉を超えて人と通じることができる特技だという。

彼のバンドル名ソルトは「産地や製法によって味・形・色が違うなど個性がある」けれど「世界に共通する調味料の一つである。」
ということで付けたそうだ。
個性がそれぞれで違っても、人の気持ちや心は同じ。
同じ言葉を話す日本では生きづらかった彼が、言葉の通じない異国の地で共通の笑いや感動に出会えたことは、
きっと大きな喜びだったに違いない。(ソルト氏が海外で撮影した写真ギャラリーはこちら

ソルトさん(左)と冠地さん(右)

 

イイトコサガシ・ワークショップ

講演の後は、冠地さんがファシリテータとなって、イイトコサガシ・ワークショップのデモンストレーションが行われた。
下記のような注意点が挙げられ、「つくる」というテーマで会話が始められた。

・会話のテーマに沿って楽しい会話をする。
・質問、共感、会話の時間は両者が半分づつ。
・話題の切り口を大きく3回変えてみる。
・「興味がない」「よく知らない」は使わない。

初参加でいきなり、それも取材だというのに皆の前で話すことになってしまったのであるが、
日ごろ喋り過ぎの傾向がある私にとっても、相手と同じくらいだけ話すということを意識するのは良い経験になったと思う。
正直、自分が何回質問したのか、切り口を変えるということもすっかり忘れていたので、ソルトさんが上手くコントロールしてくれた。
終了後はイイトコサガシ隊が、会話について良かったこと・参考になったことを褒めてくれる。何だかくすぐったくて嬉しい。

普段の何気ない会話で傷ついたり、上手く会話できないことを辛く思っている発達障害の人達がいるということを、
皆がもっと知ってその特性を理解して、心を向けて話を聞いたり、判り易く話したりすることで、
彼らが一生懸命考えながら話さなくても良くなるのではないか。
会話にも歩み寄りが必要だなぁ。と、帰り道を歩きながら思ったのでした。

<関連リンク>

ソルトさんのホームページ
http://www3.u-toyama.ac.jp/gp07/contents/salt/index.html

文・写真 高田敦子