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「自閉症スペクトラム障害の子どもたちのコミュニケーション支援」藤野 博 教授(武蔵野東教育センター)

2012年10月3日

10月3日。発達障害児の療育で有名な武蔵野東教育センターの主催する支援者のためのセミナーに参加した。
「自閉症スペクトラム障害の子どもたちのコミュ ニケーション支援」というテーマで、
東京学芸大学の藤野博教授からお話を伺った。発達障害について専門家の方の話を聞くのは今回が初めてである。

 まずは、自閉症スペクトラム障害(ASD)の特徴を一通り聞く。今日はADHDの話はないので、混乱することもなかった。

藤野先生ご自身が手掛けた「アニメーション版・心の理論課題CD-ROM」のアニメーションを実際に見せていただくと、”他人の立場で物事を考えることが困難”というASDの子供が持つ特徴を、
「ああ、こういうことなんだ」と実感として知ることができた。

 

また、一枚の写真を見せられたとき、普通は脳の自動処理によって主なポイントが印象に残るのに対して、
ASDの人にとっては情報の洪水で、ポイントを整理して情報処理することが困難なことを違いとして知ることができた。

たとえばこの写真を1分間見た後で、思い出しながら簡単な絵に描いてみて欲しい。
(*この画像は講演で実際に使用しされたものではありません)

多くの人は、似たり寄ったりの絵を描く。海岸線があり、建物がいくつかあり、砂浜で寝そべった人がいる。
しかしASDの人にとっては、建物の大きさ、数、立っている人、寝そべっている人、泳いでいる人、帽子をかぶった人、
水着を着た人、洋服を着た人、パラソルの数、雲の形などなど、溢れる情報が目に飛び込んでくるのだ。
カラー写真であればさらに情報は増える。感覚の違いを想像してみて欲しい。

 

後半は、今日のテーマであるADS児へのコミュニーケーションと学習支援について。
具体例を交えながら、支援するにあたっての注意点をアドバイスされた。藤野先生がとりわけ強調されていらしたのは、
子供との信頼関係とポジティブ・アプローチを常に念頭に置いて行うことの大切さ。
支援というのは適切なやり方を教えるものではあるが、非を責めて失敗談ばかりを取り上げるのではなく、
良くできたことを褒めてあげながら子供のやる気に繋げていくことが大事であると強調されていた。

そうした上で、

・大事なことは初めに。要点をまとめて伝える。
・文字にして伝える。
・注意を喚起してから話す。

など効果的な支援方法についてお話してくださった。

聴覚情報は聞いた端から消えてしまい、タイミングを同時チューニングしなければならないが、
書いた物はあとで残るので、好きな時にタイミングを合わせて取り入れられる。
そういうこともあって、ASDは視覚情報に長けているのではないかと話されていた。

スペクトラムという言葉の通り、ASDと定型発達との間はハッキリ分断されているわけではないが、
その特性を知り、言葉を使って翻訳する。大げさに言えば、”異文化コミュニケーションとして捉える”こと。
自閉症児によくみられる ”こだわり行動”も、社会的に不適切なものでなければ、その子なりの “気持ちの調整方法”として
捉えてあげることもできる。不安定さを取り除くためにも、その子なりのリラックス法やリラックス時間・場所を
確保してあげて欲しいとアドバイスされていた。特徴を知って受入れ、言葉やイメージを用いて理解することが必要なのだ。
藤野先生は、ASDの視覚優位な特性を利用して、iPadの活用もされており、撮った動画を支援で用いたり、
家庭で学校の様子を語り合う補助的ツールとして利用されている。

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以下は筆者の備忘録です。セミナー内容をもっと知りたい方はどうぞ。

〜ASDの基本的特徴

下記ができないということではなく苦手な場合があるということで、人によって違う。

社会性の障害
  一人が好き、空気を読めない、暗黙のルールに気付かない、新しい状況は不安、ソーシャル・スキルが乏しい
コミュニケーションの障害
  冗談がわからない、裏の意味がわからない、雑談ができない、一方的に話す、話題を突然変える、
  明確な答えのある質問は答えやすいが、最終的終着点がないフリートーキングは苦手
想像力の障害
  一人で空想するのはできるが、人とイメージを共有できない、
  小説やドラマで場面をイメージすることができない、ごっこ遊びができない
反復的で情動的な行動
感覚の過敏性
運動の不器用さ

〜ASDの認知的特徴

実行機能の障害
  何をどのような手順で行ったらよいかわからない
中枢性統合が弱い
  多くの情報からポイントをピックアップするのが苦手
心の理論の障害
  相手の考えや感情がわからない

〜”心の理論”とは

初めに見たアニメーションは「ボールの問題」。
これはBaron&Cohenが考案した『サリーとアンの課題』として知られているもので、次のような課題である。

1)なつきちゃんがボールを箱の中に入れました。
2)なつきちゃんは部屋を出て遊びに行きました。
3)ゆうた君がやってきて箱の中のボールを見つけ、それをバッグに入れて部屋を出て行きました。
4)しばらくしてなつきちゃんが戻ってきました。なつきちゃんはボールを見つけるために、どこを探すでしょうか?

答えはもちろん”箱の中”であるが、ASDの子供は ”かばん” と答えてしまうという。
自分の考えでなく視点を切り替えて、相手の立場に立つということが難しいことがよく分かる。
こうした問題は、通常の発達では4~5歳でできるようになるとされているが、知的障害のないASDの子どもでは
9歳頃にならないとできないらしい。

更に上級レベルの「やきいもの問題」。もとになったPerner&Wimmerの『ジョンとメアリー課題』ではアイスクリームになっているそうだが、登場人物も増えてややこしくなってくる。

1)ゆうた君となつきちゃんが公園にいると焼きいも屋が来る。
2)ゆうた君は、焼きいもを買おうとするが、お金を忘れていた。
3)焼きいも屋は「昼からもずっとこの公園にいる」からとお金を取りに行く?と促し、ゆうた君、お金を取りに家に戻る。
4)焼きいも屋は、「公園は人が少ないから駅前に移動しよう」とつぶやいて行ってしまう。なんたる気まぐれ!
5)なつきちゃんはそれを聞いて、ゆうた君のことが気になり、ゆうた君の家に向かう。
6)一方ゆうた君は、駅前まで向かう焼きいも屋と出くわし、「駅前に行く」と聞いて駅に向かう。
7)ゆうた君を探しに家を訪れたなつきちゃんは、ゆうた君のお母さんから「ゆうたは焼きいもを買いに行った」と言われる。
8)さて、なつきちゃんはゆうた君が焼きいもを買いに、どこに行ったと思っていますか?それはどうしてですか?

少し込み入っているが、答えは簡単。
なつきちゃんは、ゆうた君が焼いも屋さんに会ったことは知らないので、公園に買いに行ったと思っている。である。

こうした”心の理論”と言われる感覚は、定型発達ならば難しい言葉はそれほど必要とせず直観的に判るが、
ASDでは言葉や文章を使って頭で考えて理解する必要があるという。

〜学習支援について

学習面においても、長文読解、作者の意図の理解、作文、文章題、自由回答は難しいという特徴は、
以前伺ったソルト氏の話と同じである。

藤野先生は、こうした問題に対する支援具体例を紹介してくれた。
たとえば作文は、以下のようにASDの苦手さが全て集約される。

・起承転結を考えて筋を考える→実行機能の障害
・書きたいポイントを整理する→中枢統合の弱さ
・自分の気持ちを言葉表現する→心の理論の障害
・相手にわかるように感情を言葉にする→心の理論の障害

 

「苦手な作文を書くための一つの方法」として以下が紹介された。

1.体験したことを写真に撮る
2.写真の中から書きたいことを選ぶ
3.書きたい順番に写真を並べる
4.写真を文章にする (写真1枚に一文)

 また、苦手な文章題やオープン・クエスチョン(決った答えがない質問)は、
設問形式を工夫して、選択式や穴埋め式にすると答え易くなるという。

〜コミュニケーション支援について

ソーシャルストーリー
   視覚型認知でも、活字や文章から入り易い子供向け。
   子供への指示書ではなく、分からない時・困った時に参照するガイドブック。
漫画と吹き出しを使って会話する(コミック会話)
   絵や写真など視覚的なものが得意な子供向け。
”こうするとどうなる?”を具体的に表にする(SOCCSS法)
   問題と解決策を視覚的に整理できる。一方的な指示にならない。自分で気付いて自分で決めるので実行しやすい。
気持ちを5段階で表す(感情メーター)
   自閉症児はメンタルヘルスの問題を抱えやすいので、自分の気持ちを知り、感情をコントロールする。

〜会話の援助法
話初めの切り出し方、わからない時の聞き方、話題を変えるタイミング、リアクションの仕方、相手の名前を呼び掛ける、
一方的に話さないで交代に話すなど。
糸電話を用いて交互に話す練習をする。使用するカップは紙は底が抜けやすいのでプラスティックがお薦めだとか。

<関連リンク>
・心の理論課題CD-ROM
http://www.kokoro-cd.com/html/more.html
・「自閉症スペクトラムSSTスタートブック」藤野博編著 伴光明・森脇愛子著(学苑社)
http://www.gakuensha.co.jp/cn15/pg337.html

文・写真 高田敦子